古物法話『あんまり酔っ払うなよ』※古美術雑誌「小さな蕾」掲載
三峰山 永昌庵
※これは古美術雑誌「小さな蕾」令和7年1月号に掲載したものを添削したものです。
『あんまり酔っ払うなよ』
「あんまり酔っ払うなよ」
……と、そう言いたくなる様な赤上がりの古伊万里の徳利である。
古伊万里と言えば、白だ。
そこに染付の闊達な筆使い、キリッとした造形、あるいは、柔肌の様にとろりとした釉薬に、どこか愛らしさを感じる絵付けがなされ、名品が生まれる。
しかし、これは赤い。酔っ払った様な赤だ。
絵付け自体も、そこまで秀でたものでは無く、よくある蔦模様である。おまけに磁貫入もある。確かに珍しい品だが、当時の伊万里としては間違いなく「失敗作」であろう。
しかし、失敗作であるにも関わらず、現代まで残されたのは何故だろうか。現に、私自身もこの徳利に、普通の徳利には無い魅力を感じている。
それは偶然の産物による珍しさだけでは無く、下手物の中に魅力を見出して、現代まで残そうと思った、古人の数寄者加減の感性に私自身も勇気づけられているからかもしれない。
この作品が失敗作…と言うのは、当時の陶工もそう思ったはずだ。だが、それが流通し日常で使われ、数寄者の目に止まり続けて、今、私の手中にある。
それは古人がこの失敗作の徳利に少なからず魅力を感じ、残そうとする心が芽生えたからに他ならないのではないだろうか。
失敗作の徳利ですら、そうなのだ。
私自身、人として決して優れた人間ではないし、気の利いた肩書きも無い。しかし、無理に闊達な筆使いや白さを求め右往左往するより、この徳利の様に、他と比べるのでは無く、生まれ持った自分の姿で生き抜いてみようと…酒が入るとそんな風に勇気が湧いて来る気がする。
ただ、そんな考えに酔っていると、きっとこの徳利は言うだろう。
「あんまり酔っ払うなよ」
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